会長メッセージ

 この度、柏柳誠会長を継いで日本味と匂学会会長を拝命しました。本学会の前身の味と匂のシンポシアムが開催されたのが1967年ですから、半世紀を超える歴史を持つ学会の会長を引き受けることになり、身の引き締まる思いであります。私自身、1989年、学位を授与された年に入会して以来、30年近く学会に所属し、その歴史を見てきただけに感慨もひとしおです。
 嗅覚研究が大きく発展を遂げたのは、まず、1970年代にパッチクランプ法など生理学的手法の発展により、においの受容にcAMPとにおい関連Gタンパク質が関与することが判明したことです。それまではにおいの受容に関しては、膜吸着説、分子間振動説、膜受容体説が挙げられていたものが、これらの発見により一気に膜受容体説に流れは傾きました。その後、分子生物学の発展により、におい受容体をコードする遺伝子が発見され、その後の研究において、受容体によるにおい受容の機構が瞬く間に解明されました。ノーベル賞を受賞したのは米国のRichard AxelとLinda Backですが、これら一連の研究には、本学会に在籍する日本人研究者の功績は少なくありません。文献を紐解くと、本学会で聞いたあるいは今も聞く多くのお名前が出てくることでしょう。また、味覚分野に目を転じましても、1990年代後半の味覚受容体の発見から、各味覚の受容体構造の解明、そして味覚受容体が口腔咽頭のみならず全身の諸臓器に存在し、疾患の発生にも関与していることがわかってきましたが、それらにも本学会会員が大きく関わってきました。従いまして、50年の間に解明された嗅覚、味覚の研究成果に、本学会が残してきた役割は多大なものがあります。しかし、それでもまだ解決されていない問題が数多く残されており、それらの解明が次なる50年に向けて、本学会に課せられた課題であります。
 学会が持つべき役割は、研究推進のための研究者のサポート、研究者間の連携、そして社会への貢献の3つであると考えます。先程行われましたAChemS(米国の化学受容学会)に出席してきましたが、会員数は減少傾向にあり、2014年に約700名であったものが、本年度では600名を下回り、特に昨年と比べても60名(約1割)の減少という状況になっていました。本学会におきましては、近年は700名程度を維持しておりますが、かつては800名の会員数であったことを考えますと、さらに会員数を増やす必要があると考えます。そのためには研究者が学会に参加しやすいサポート体制を整えることが重要と考えます。特に今後も研究を継続し発展させるためには、若手研究者の育成が大切であります。その対応としまして、昨年の神戸大会から優秀発表賞を設けて若手発表者への褒章としました。さらに本年からは、学生会員の発表に対して大会参加補助を行うこととしました。
 次に研究者間の連携ですが、本学会の会員は、自然科学、社会科学を含めた様々な大学の学部から、公的、私的研究機関、さらには企業の研究者まで、幅広い分野に渉っているのが特徴です。富士山も静岡県側から見るのと山梨県側から見るのとでは違って見えるのと同様、それぞれの目的や方法が異なっていても、一つの問題を様々な分野から解決に向けて進めることにより、一層早い決着が期待できます。さらに、ある分野での発見が、別の分野での貢献につながることも少なくありません。このような多様性という本学会の特徴を活かした活動の推進を行っていきたいと考えております。そのためには大会を主催される皆様にも連携を意識したプログラムを構成していただけることを期待しますとともに、多くの研究者に学会に加わっていただき、大会に参加していただくことが必要と考えます。
 3つ目の社会への貢献につきましては、味覚、嗅覚は人の生命を支える食と深く関わるのみならず、生活の質の維持、向上に関しても重要な役割を持つ感覚であることから、われわれの研究の発展=社会への貢献となります。また、私が携わっている医療においても、診断や治療の発展へとつながっています。さらには人以外の動植物の研究も、間接的に人の生活に関わってきます。このように、本学会での研究成果は直接的、間接的に社会貢献へと結びつくものでありますが、それに加えて、ホームページなどによる広報活動や公開講座などにより、本学会の成果を広く社会にアピールできればと考えております。
 最後に、本学会は、発足40年を迎えたAChemS、28年目を迎えるECROと比較しても、過去の歴史にも現在の研究内容もまったく引けを取ることはありません。本学会も含めた3つの団体がともに切磋琢磨するとともに共同し、嗅覚、味覚の研究を推進していくために、少しでもお役に立つことができればと願っております。皆様のご協力をお願い申し上げます。

日本味と匂学会長 三輪 高喜

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