学会長メッセージ

ご挨拶

この度、三輪高喜先生を引き継ぎ、日本味と匂学会第10代会長を拝命しました理化学研究所の吉原良浩です。
これからの3年の間、どうぞよろしくお願いいたします。

日本味と匂学会は、1967年に始まった「味と匂のシンポジウム」を前身として、1991年に設立されました。本学会は、味と匂に関する科学の広汎な研究の進展を図ることを目的として、我が国の大学・研究所・企業・病院などに所属する多くの味覚・嗅覚研究者によって構成・運営されています。また本学会は、米国のAChemS(Association for Chemoreception Sciences)及び欧州のECRO(European Chemoreception Research Organization)と連携しながら、世界の味覚・嗅覚研究を牽引しています。

私が嗅覚の世界に惹きつけられたのは1989年でした。京都大学大学院薬学研究科を修了し、大阪バイオサイエンス研究所神経科学部門のポスドクとなった私の実験ベンチの隣で、森憲作先生(当時、副部長)が実験をされていました。研究者としてまだヒヨッ子の私に対して、すでに世界の嗅覚研究の第一人者となっていた森先生は懇切丁寧に、脳科学・電気生理学・神経解剖学の基本を教えてくださるとともに、当時未発表であった「嗅球における匂い地図」の実験の議論に加えてくださりました。AxelとBuckが嗅覚受容体遺伝子発見の論文を発表したのが1991 年ですから、その2年前に私は「匂い情報が脳内でどのように表現されているのか?」という嗅覚研究者にとっての基本命題の解をこっそり教えてもらえるという幸運に恵まれたのです。また1991年に嗅覚研究の大家であるGordon ShepherdやRichard Axelの研究室を訪問したことも、私が嗅覚研究の深みにはまる端緒となった衝撃的な出来事でした。それから10年が過ぎた2001年、私は日本味と匂学会に初めて参加しました。
高知で開催された第35回大会に招待いただき、その懇親会席上で椛秀人大会長、二ノ宮裕三先生、東原和成先生に取り囲まれ、強引に勧誘されるままに、後先顧みずに入会しました。その時は、まさか20年後に会長という大役を拝命するとは夢にも思っていませんでした。

さて、昨春からのCOVID-19パンデミックによって、世界の情勢、私たちの生活は大きく変容しました。
緊急事態宣言が発令され、在宅勤務・時差出勤などで私たちの研究活動も困難を極めるとともに、学会活動も大きな影響を受けました。昨夏に米国Portlandで予定されていた第18回ISOT(International Symposium on Olfaction and Taste)および千葉県柏市で予定されていた第54回日本味と匂学会大会ともに、現地開催は不可能となり、オンラインでの開催を余儀なくされました。しかしながら、オーガナイザーの先生方の甚大なご努力により、オンライン開催のメリットを最大限に活かした運営がなされ、記録にも記憶にも残る素晴らしい大会となりました。また、今後の大会のあり方を考えるための試金石にもなりました。学会の運営委員会もすべてオンライン会議となりましたが、画面越しでも十分に深い議論が効率的にできることが分かり、皆様の貴重な時間、移動の労力とともに出張旅費の削減ができました。

もうひとつ別の意味でCOVID-19は、私たち味覚・嗅覚研究者に大きな影響を与えました。多くの感染者に食べ物の味・匂いが分からなくなるという症状が現れたために、味覚・嗅覚への一般の人々の関心が高まりました。このことを機に、味覚・嗅覚研究における臨床と基礎の結びつきがこれまで以上に強固となり、社会への情報発信・研究成果の還元の重要性が改めて認識されました。このようにCOVID-19が招いたのはネガティブな影響だけでなくポジティブな側面も存在しており、今後しばらくはそれらのメリットを活かしながら、オンサイトでの大会開催や、Face-to-Faceでの議論・共同研究の再開へと回帰していくことを願います。

これからの3年間、1)若手の育成、2)学会内の異分野研究の融合・連携促進、3)学会の国際化、4)学会から社会への情報発信、を4本の柱として中心に据え、本学会から発信される研究成果が味覚・嗅覚分野のみならず生命科学・医学の発展をもたらし、さらには社会への貢献を目指して、学会運営を行う所存です。皆様のご協力とご支援、学会活動への積極なご参加のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

2021年4月
吉原良浩

PAGETOP